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JMAの経済ニュース 資産が資産であるために(2021年8月20日)

本コラムでは、世の中で起こっている経済トピックスの中から当委員会の解釈で解説しています。

マクロ経済の視点からミクロのM&Aを始めとする経営活動にお役立ていただきたく掲載しているものです。

掲載している内容については、当委員会で知りえた情報に基づいた見解であり、

利用者個人の責任においてご判断下さるようお願いいたします。

ジャパンM&Aソリューション株式会社
JMA経済トピック製作委員

 

資産が資産であるために

 

債務超過に陥っている政府

金融や財政の問題を考える際には貸借対照表(以下、B/S)の発想で議論することが重要だ。B/Sは左側の資産の部と右側の負債・資本の部が常にバランスするようにできているが、単に1つのB/Sがバランスしているだけでなく、実は世の中全体のB/Sを合計してもバランスは保たれている。この点は極めて重要である。

さて政府は債務超過から免れ得ない。このことをB/Sで確認しておこう。今年度の当初予算で政府は44兆円の国債を発行するが、政府のB/S上では負債側に「国債発行額44兆円」と記載される。この場合、同時に資産側にも44兆円の資産が計上されることでB/Sの均衡が維持される。その資産が政府当座預金だ。

政府当座預金とは、政府が日銀に開設している当座預金口座であり、ここに44兆円が振り込まれるのだ。やや詳しく説明すると、発行された国債を例えば民間投資家が購入すれば、この投資家のB/S上では、国債が新たな資産として計上される一方、同額の預金(資産)が購入代金として支払われて減少することになる。他方、投資家の取引銀行のB/S上では、負債である投資家の預金が減少し、資産側で同額の日銀当座預金が減少する。

日銀当座預金とは、民間銀行が日銀に開設している当座預金口座のことだ。この預金残高が投資家の国債購入額である44兆円だけ減少するのだが、その資金が政府当座預金口座に移るというわけだ(これで日銀のB/Sの均衡も維持される)。

さて次のステップで政府は当然この44兆円を支出する。それは民間の預金の増加となり、同時に日銀当座預金に戻ってくる。問題は政府のB/Sなのだが、当座預金が44兆円減少した後、B/Sの均衡を維持するような資産の増加や、あるいは負債の減少は起こらない。結果として、資本のマイナス項目として44兆円の「債務超過」が計上されることになるのだ。

 

財政支出の拡大を提唱するMMT

ここで流行りの「MMT(現代貨幣理論)」を考えてみたい。MMTでは、政府歳出の財源としての税収は不要だとされている。政府は、歳出を賄うために必要なだけ通貨(貨幣)を発行すればよいという考え方だ。具体的には、政府が発行した国債を中央銀行が資産として購入し、その見合いで通貨(中央銀行の負債)が発行されることになる。

実はMMTでは政府と中央銀行を一体化して「統合政府」という捉え方をしている。そうなると国債を発行するのも購入するのも統合政府だということになる。統合政府のB/Sの両側に国債が計上されるわけだ。結果として、歳出に必要な通貨を発行するために国債をいくら発行しても、統合政府の資産と負債が同額増えるだけで、両者は相殺されてしまうという考え方だ。

実際、日本ではどうなっているかと言えば、政府がこれまでに発行した約1,000兆円の国債のうちおよそ半分を日銀が購入して保有している。「統合政府」で考えれば、500兆円分の国債がB/S上で相殺されて、純負債は500兆円だけだということになる。今後も、金融政策の一環との名目で日銀が国債の購入を続けるなら、国債の増発が統合政府の純負債を増加させる心配は小さいというわけだ。

こうした考えのもとでMMTは、長年経済の低迷が続き、物価は上昇しないことが問題になっている日本経済にとっては、財政支出をもっと拡大させて経済を成長させるべきであり、そのために国債を増発させることには何ら問題がないどころかむしろ望ましいことだと主張しているのである。

 

確かな裏付けがない資産

ところで、政府が財政支出を行えば民間部門の預金が増加する。民間部門のこの資産は、直接には民間銀行の負債だが、B/Sを辿っていくと、民間部門の預金=民間銀行の負債=日銀当座預金(=民間銀行の資産、日銀の負債)である。そして、日銀の負債である日銀当座預金に見合う日銀の資産は国債だ。つまり、民間の資産である預金の究極の裏付けは「政府が発行した借金の証文(国債)」だということだ。

しかしMMTでは、この国債が統合政府のB/S上で相殺されて消えてしまう。改めてB/Sを見ると、政府が発行し中央銀行が購入する国債は、一旦、統合政府のB/Sの左右に計上された後に相殺される。中央銀行が国債を見合いにして発行した通貨は、政府の財政支出を通じて民間の預金となり、中央銀行の預り金(日銀当座預金)に戻ってくる。結果として統合政府のB/Sに残るのは、(国債は相殺されてしまうので)負債側の日銀当座預金だけとなる。しかしこれではB/Sはバランスしないので、この当座預金(負債)残高に見合う「債務超過」が資本の部のマイナス項目として計上されるわけだ。

これは、民間部門の資産である預金(現金)の究極の裏付けが統合政府の債務超過という数字でしかないことを意味する。国債を発行して調達したお金を政府が支出し、それが民間の預金になるのであれば、本来、預金の裏付けは国債という「政府の借金証文」であるはずだろう。

一般に、ある資産が確かな資産であるためには、それが誰かの負債であることが明らかである必要がある。債務者がそれを必ず返済できるとは限らないが、資産が誰の負債であるかがはっきりしていなければ、資産は資産たり得ない。

民間の資産である預金の裏付けが、国の借金証文という形あるものであるならよい。しかし政府のB/Sの左右の金額の不一致部分でしかない債務超過が、民間の資産の裏付けだというのでは安心などできない。なにしろMMTは、統合政府で考えれば国債の一部(大部分)は相殺できると主張するのだから、借金が借金でなくなると言っているに等しい。

政府の債務超過は、資産の裏付けがない債務だ。それが民間の資産の裏付けであるということは、民間にとっては、政府の「口約束」を信じろと言われているようなものだ。民間が政府に厚い信頼をおいているならいいだろうが、そうでない場合には、ある日突然、政府が見限られる可能性も否定できない。実際、世界を見渡せばそんな例はいくつもある。日本は例外だと言い切れるだろうか。債務超過に陥った企業は資金繰りがつかなくなれば即、破綻する運命だ。国債発行という資金繰りはいくらでも可能だというMMTの甘いささやきにうっかり乗ってしまってはなるまい。

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