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JMAの経済ニュース 世界で「買い負ける」日本(2021年7月27日)

本コラムでは、世の中で起こっている経済トピックスの中から当委員会の解釈で解説しています。

マクロ経済の視点からミクロのM&Aを始めとする経営活動にお役立ていただきたく掲載しているものです。

掲載している内容については、当委員会で知りえた情報に基づいた見解であり、

利用者個人の責任においてご判断下さるようお願いいたします。

ジャパンM&Aソリューション株式会社
JMA経済トピック製作委員

 

世界で「買い負ける」日本

 

ビッグマック指数

週刊 “The Economist” 誌によると、20211月時点の日本で1390円するマクドナルドのビッグマックがスイスでは760円だったという。また米国では590円だったそうだ。ちなみに当時の為替レートは、1スイスフラン=117.57円、1ドル=104.71円である。

ビッグマックで測った購買力平価という指標があり、スイスでも390円でビッグマックが買える円・スイスフラン相場は1スイスフラン=60.37円である。実際の相場である117.57円に比べると大幅な円高だ。ちなみに同様の計算をすると、円の対ドル購買力平価は1ドル=69.27円となって、こちらも実際の相場1ドル=104.71円に比べて大幅な円高水準である。

 

購買力平価という考え方

もっとも、たった1つの商品を使って通貨の強弱を比較するのは乱暴だし、できれば年々の推移もみたくなる。そこで、より一般的な円の購買力平価は次のように考える。たとえば「円の対ドル購買力平価」とは、「基準時点に円が持っていた対ドルの購買力が今でも維持されているためには、円の対ドルレートが基準時点に比べてどれくらい強く(あるいは弱く)なっている必要があるか」を示す指標である。

(注)「基準時点の購買力を維持する」とは、例えば基準時点に日本でハンバーガーが1個買える円では米国のハンバーガーが1/2個しか買えなかったとして、比較時点では日米双方でハンバーガーの値段が変わっているとしても、引き続き日本で1個、米国で1/2個の関係が維持されている状況を示す。

さらに円のより総合的な強さを見るために、円対ドルといった2国間の通貨の関係ではなく、円対海外通貨という関係で購買力平価を捉えるのが一般的だ。これは基準時点を100とする指数で表すのだが、例えば現在の水準が120であるとすると、その意味は「基準時点の段階で円が海外諸国のモノやサービスに対して持っていた購買力を今でも維持しているためには、円は基準時点に比べて20%円高になっている必要がある」ということになる。

 

内外価格差を反映する購買力平価

さて、この広義の円の購買力平価は実際にはいくらか。2000年を100とすると、足元で160程度である。2000年当時と比較して6割程度円高になっていないと、当時の円が持っていた購買力は維持できない(だから実際には円の購買力が大幅に低下している)ことになる。6割円高になることは、例えばドル円レートで考えると、2000年当時の1ドル=107.80円から6割円高の水準は1ドル=67.38円である。

円の購買力を維持する(低下を回避する)ことは、海外からの輸入への依存度を高めている日本経済にとっては極めて重要である。しかしそのために6割もの円高が必要だとなると、とても耐えられないのが事実だろう。

しかし足元の円の購買力平価が160ではなく110だとすれば、1割程度の円高で購買力が維持できることになる。1割の円高なら、対ドルだと67.38円ではなく98.00円である。20年ほどの間に107.80円から98.00円への変化なら耐えられるだろう。

購買力平価は物価水準の内外格差の変化を反映しているので、指数が160ではなく110になるということは、海外の物価が20年間で60%上昇していたとすると、同じ期間に日本で物価が全く上昇していなければ16045%上昇していれば110という計算になる。

20年間で60%の物価上昇は年率では2.5%であり、45%の物価上昇は年率2.0%だ。日本で過去20年間、毎年2%平均の物価上昇が続いていれば、10%程度の円高で購買力が維持できたのである。

 

力の購買低下を避ける方法とは

2%の物価上昇とは、奇しくも日銀が目指してきた物価上昇目標そのものだ。「異次元の金融緩和」を8年以上続けても全く達成できなかったのだから、やり方が間違っていたのだ。素直に考えれば、賃金が上がっていれば物価も上がっていただろうとは言えるだろう。実際、G7諸国について2000年以降の賃金水準の推移をみると、日本だけが下がっている(他の国々の平均は50%以上の上昇)。賃金が上昇しないから物価も上がらなかったのだ。

やや荒っぽい言い方をすれば、賃金とは企業活動が生み出す付加価値の家計への分け前である。この付加価値の総合計が名目GDPなのだが、企業活動の成果である名目GDPを家計と企業が分け合い、それぞれから政府が税を徴収するのが経済の姿だ。

賃金が上がってこなかったということは、分ける前のパイは増えているのに企業が家計の分け前を減らしてきたのか、企業が多少取り分を増やしてきたとはいえ、そもそもパイが全く増えてこなかったのか。事実は後者である。

結局のところ、2000年以降を振り返ってみると、名目GDPが増えてこなかった(経済成長が実現しなかった)から賃金が増えず、そのせいで物価が上がらず、その中でできるだけ円安が進むような政策を取り続けてきたから円の購買力が大きく低下してしまったのである。円の購買力の低下を防ごうとすれば、しかも円高は嫌だというなら、経済を成長させるしかない。

そして、経済を成長させることは名目GDPを増やすことに他ならないが、名目GDPは企業活動の成果である付加価値(売上げ-仕入れ)を増やすことである。それは、売上げを増やすことによってのみ達成される。コスト(とくに人件費)を削減して自社の利益だけを増やそうとする試みは、マクロ的に見れば自分の首を絞める行為でしかないのだ。

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