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JMAの経済ニュース 物価は上げられるか(2021年5月21日)

本コラムでは、世の中で起こっている経済トピックスの中から当委員会の解釈で解説しています。

マクロ経済の視点からミクロのM&Aを始めとする経営活動にお役立ていただきたく掲載しているものです。

掲載している内容については、当委員会で知りえた情報に基づいた見解であり、

利用者個人の責任においてご判断下さるようお願いいたします。

ジャパンM&Aソリューション株式会社
JMA経済トピック製作委員

 

Ⅰ物価は上げられるか

 

一向に上がらない物価

日銀は、消費者物価の前年比上昇率を2%にするという目標を今も取り下げていない。黒田総裁が、その目標を2年で実現すると宣言したのは2013年春のことだった。勿論、2%というのは「安定的に」という意味であって、瞬間風速的にある月だけとか、ある四半期だけ2%上昇することではない。今年の上昇率が2%で、来年の上昇率も2%になるだろうといった状況を実現することであるはずだ。

現実はどうかと言えば、8年超の時間が経過した現在まで、消費税率が引き上げられた(20144月:5%→8%、201910月:8%→10%)影響を除けば、全く実現していない。今後についても、日銀の政策委員たちの見通しを見ると、今年度の上昇率が、前年比0.0%~0.2%(中央値が0.1%)、新型コロナの悪影響の反動が期待される22年度でも同0.5%~0.9%(中央値が0.8%)、23年度が同0.7%~1.0%(中央値が1.0%)となっており、10年経っても目標達成には程遠いと予想されている。

お札(さつ)を刷る

物価は上昇することが望ましいのかどうかは別にして、上がりさえすればいいのであれば、簡単に上げることができるのではないか。紙幣を印刷して国民に配ればよいのだ。

1万円札を印刷するコストは1枚当たり20円程度だ。2000億円の予算で100億枚の1万円札を印刷して、1億人の国民に1100枚(100万円)ずつ配ることができる。ちなみに、昨年配られた110万円の特別給付金のための予算は、1213兆円だったから、同じ額を使ってお札を印刷すれば、60006500億枚印刷できていたことになる。国民全員に、1人当たり6000万円以上(3人世帯なら2億円近い)のお金を配ることができたはずだ。

マクロで見ると、110万円の給付金はほとんど使われないで、貯蓄されてしまった。しかし、1人当たり数千万円ものお金が配られれば、相当な額が使われて、物価も上がったに違いない。一度にまとめて給付しないで、数年に分けて行うと周知すれば、持続的な物価上昇も確実に実現できるのではないか。なぜそうした政策がとられないのだろうか。それとも、こうした考え方はそもそも間違っているのか。

日銀券vs.政府紙幣

この問題を考えるヒントは、①日銀券は印刷されただけでは「ただの紙」に過ぎない、②日銀券は日銀の負債に計上されて初めて価値を持つ、という点だ。例えば10兆円の1万円札(10億枚、印刷コストは200億円)を印刷して配ると、日銀のバランスシートに負債として「日銀券発行10兆円」が計上される。その際、資産側に計上されるのは、もちろん国債だ。政府が10兆円の国債を発行し、日銀がそれを引き受けて、見合いで印刷された日銀券が国民に配られるという図式だ。印刷コストは200億円ではあるが、国民が受け取る10兆円分だけ財政赤字も膨らんでしまう。仮に1億人に1000万円ずつ配ろうとすれば、それだけで財政赤字が1000兆円も増えることになるのだ。

これに対して、もう一つの思考実験として、①麻生財務大臣が「金 百兆円也 財務大臣 麻生太郎」と書いたお札(ふだ)を桐の箱にでも入れて日銀に渡す、②ただし、これは国債と違って借金の証文ではない、③日銀が、このお札に絶対的な価値を認めて資産に計上し、見合いで日銀券を100兆円発行して政府に渡す、ということをすれば、2000億円の印刷コストで100兆円(1人あたり100万円)の日銀券を国民に配れる。これが政府紙幣と呼ばれる通貨であり、日銀券と全く同じ価値を持つ。政府紙幣を日銀券と区別するために、色やデザインを変えてもよい。何よりの特長は、政府紙幣は誰の負債でもないという点だ。

昔、日本には小判という貨幣があった。金が含まれていて、それ自体に価値があった。しかし財政が困窮した政府(幕府)が金の含有量を減らして発行量を増やしたら、大変なインフレになったという話がある。現代の政府紙幣は日銀券と同じく「ただの紙」だから、小判とは違ってそれ自体に価値はない。財務大臣のお墨付きが確かな裏付けになるのかという問題だ。現実にはおそらく信用されないだろうから、政府紙幣の発行は無理だという結論になる。

物価上昇は原因ではなく結果

円安になれば物価も上がるという見方は多い。これまで日本は、いつも円安を望み、そのような政策をとり続けてきたと言ってもいいだろう。それは、輸入価格が上がれば国内物価も上がるという話だ。しかし、そうした物価上昇は、国内の所得が海外に流出することでもある。「所得が減って、物価が上がる」状況を目指すことが望ましい政策だと言えるのだろうか。

目指すべき物価上昇には王道がある。①景気がよいことを反映して物価が上昇する、②消費者が納得して(以前よりも)高い価格を支払う、③値上がり分は、国内の誰かの懐に入る(海外に流出しない)、という条件を満たすことだ。それは、輸入インフレではなく、経済成長を裏付けにした国内要因による物価上昇であり、消費者の満足度を高めるモノやサービスが提供された結果としての物価上昇であるはずだ。換言すると、物価上昇はあくまでも経済活動の結果であるということだ。物価が上がりさえすれば経済がよくなるというのは逆立ちした議論だというべきだ。

8年間にもわたって、ひたすら物価上昇を目指して異常な金融緩和政策が続けられ、今後もそれを改める気配が全く感じられないのが現状だ。大事なことが忘れられている気がしてならない。

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