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JMAの経済ニュース 無重力空間を浮遊する日本経済(2022年7月22日)

本コラムでは、世の中で起こっている経済トピックスの中から当委員会の解釈で解説しています。

マクロ経済の視点からミクロのM&Aを始めとする経営活動にお役立ていただきたく掲載しているものです。

掲載している内容については、当委員会で知りえた情報に基づいた見解であり、

利用者個人の責任においてご判断下さるようお願いいたします。

ジャパンM&Aソリューション株式会社
JMA
経済トピック製作委員

甘やかされる企業部門

宇宙船の中で飛行士が、無重力状態の下では全く必要ないのに、しかし絶対にやり続けないといけないことといえば「筋トレ」だろう。重力のないところに長く滞在すると筋力が衰え、いざ地上に戻った時には歩くどころかまともに立つことすらできなくなってしまうからだ。

こじつけめいていることを承知で言えば、日本の経済(財政金融)政策は国民を無重力の環境下に置こうとしてきたのではないか。企業に対してもそうだ。しかも、総じてみれば、わが国の企業は「筋トレ」を怠ってきた。例えば「ゼロ金利」という無重力。それに慣れてしまえば、わずかな金利の上昇にも耐えられなくなる。1%の借入金利が2%になれば金利の支払額は倍増する。3%なら3倍増だ。極めて低い収益率でもやっていけた企業が、わずかな金利の上昇で行き詰ってしまうことになりかねない。長期にわたってゼロ金利が続いてきただけに、それに慣れて「筋トレ」を怠ってきた企業が多いのではないかと懸念される。金利という重力が急に増せば、たちまち身動きが取れなくなってしまうのだ。

個人金融資産の「貯蓄から投資」への流れが進まないという問題がある。前回の本欄(「貯蓄から投資へ」は実現するか(202267日))で、それは企業部門が間接金融に頼りすぎているからだと指摘した。もう1つ指摘しておかないといけない要因は、企業部門の収益率がそもそも低いという問題だ。2000兆円を超える個人金融資産の半分以上を占める預金(金利はないに等しい)の比率を下げて、投資(主として株式)の比率を上げるということは、家計が持つ資産の収益率を高めるという目的がある。その収益の出所は企業部門しかあり得ないから、企業がもっと収益率を高める必要があることになる。ゼロ金利の下で企業がもっぱら銀行借り入れに依存し、低収益率でも済んできた状況が今後も続くなら、「貯蓄から投資へ」の動きは掛け声だけに終わって一向に進まないだろう。

 

ばらまかれる財政支出

わが国の財政も、厳しい言い方をすれば、見返りのない大盤振る舞いを繰り返してきた。例えば2020年度の一般会計予算を見ると、まだコロナを想定していなかった当初予算では歳出が79兆円、国債発行が33兆円だった。その後、3次にわたって補正予算が組まれ、歳出額は74兆円増の153兆円、国債発行は80兆円増の113兆円と、どちらも倍増した。ところが、決算で締めてみると37兆円もの使い残しが生じたのだ。

ほとんど経験のない未曽有の事態であったとはいえ、年度中に3回も補正予算を組んだ挙句に、積み増した歳出額(74兆円)の半分(37兆円)が使われなかったわけだ。コロナを口実にして、あれもこれもと金額ありきで予算を膨らませた結果だろう。実際に支出された中にも、不用な使途への支出、支援など不要な人たちへの給付も多かったことだろう。

コスト意識が欠けていると言わざるを得ない。満期を迎えた国債は借り換えればよいと考えるのであれば、ゼロ金利の下では利払いの心配もない。国債を増発して歳出を賄うことに、政治家は何の後ろめたさも感じていないだろう。アベノミクスの主宰者であり、先日、非業の死を遂げた安倍元首相も、「(国債の満期が来たら)返さないで借り換えて構わない。心配する必要はない」と話していた。繰り返される財政からの大盤振る舞いやバラマキぶりを見ていると、政治家がゼロ金利という無重力状態の宇宙船の中で、財源を一切気にせず、好き勝手に動き回っているようにも思える。

結果として世界に類のない、高い債務残高比率(債務残高対名目GDP比率)が生じた。さらにその財政を支えているのがゼロ金利でもある。例えば2022年度の補正後予算を見ると、利払い費は8兆円だ。しかも毎年、実際の利払い額は予算額を下回っている。国債発行残高が1000兆円を超えていることを思えば、利払い費負担は極めて少ない。日銀が国債を買い支え続けているからだ。

 

たなぼた的な円安差益

円安もしかりだ。為替レートは本来どちらに振れても利害が対立するものだが、日本では常に「トータルしてみれば円安が望ましい」という考え方が支配的だった。日銀によれば、円安のメリットは①価格競争力が改善して財・サービスの輸出が増える、②円ベースで見た輸出額が増えて企業収益が改善する、③円ベースで見た所得収支が改善する、等々だ。

しかし、今や①のメリットはかなり低下してきている。②と③はまさに「為替差益」の話であって、労せずに利益を得られるというのは言いすぎだが、稼ぐ力が増すこととは違う。差益のかなりの部分が海外に再投資され、国内経済への恩恵は多くない。それにもかかわらず、計算上、トータルの企業収益が増加して株価も上昇することが重要視されてきた。期待に反して円高が進行するような局面では、しばしば「円高景気対策」が発動される。本来、利害が対立するはずなのに、これまで「円安景気対策」が取られることはなかった。

結果として、やや長めの視野で見れば、実質的に大幅な円安が進行した。「実質的に」とは、「物価の内外価格差の変化を考慮すれば」という意味だ。海外の物価が相対的に上昇すれば、円を持つ我々の購買力は低下する。それを防ぐには、物価上昇率の格差を埋める分だけ円高が進行する必要がある。それが実現しなければ「実質的に円安」になってしまうのだ。

例えばドル円レートは、2000年の年間平均は10777銭、今年4月は12622銭なので、「表面的には」対ドルで14.6%円安が進んだことになる。しかし、同期間に「実質的には」51.6%も円安になっている(実質実効レートベース)。海外の財やサービスに対する我々の購買力が20年余りのうちに半分以下に落ちてしまっているのだ。

円安で輸出関連産業の収益が増加すれば日本経済全体が浮揚するという思いが強く、円安を是とする経済運営が長年続いてきた。今、その円安は実現している。デフレ脱却の象徴として目指してきた消費者物価上昇率2%も実現している。それにもかかわらず、世界に先駆けて始めた「非伝統的」金融緩和政策を、欧米各国は既に転換しているのに、日本だけ止められずにいる。あるべき姿として思い描いてきた景色と違っているからのようだ。

よかれと思って取られてきたはずの政策が、むしろ対象者の強靭化や成長を阻害してしまっていないか。いざ目的地に着いてみたら予想した景色と全く違っていたのは、そもそも(政策の)目指す方向が間違っていたのではないか。

経済同友会のトップが、先日の参院選での与党勝利を踏まえて、「日本が過去30年間でできなかったイノベーションによる力強い成長を実現してほしい」と要望している(713日付、日本経済新聞朝刊)。他人事なのかと驚きを禁じ得ないが、政策によるお節介な介入を繰り返してきたことが当事者に他力本願の意識を植え付けてしまったのではないか。

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