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JMAの経済ニュース 「貯蓄から投資へ」は実現するか(2022年6月7日)

本コラムでは、世の中で起こっている経済トピックスの中から当委員会の解釈で解説しています。

マクロ経済の視点からミクロのM&Aを始めとする経営活動にお役立ていただきたく掲載しているものです。

掲載している内容については、当委員会で知りえた情報に基づいた見解であり、

利用者個人の責任においてご判断下さるようお願いいたします。

ジャパンM&Aソリューション株式会社
JMA
経済トピック製作委員

「資産所得倍増プラン」を打ち出した岸田首相

岸田首相は55日、ロンドンの金融街シティーで講演し、日本国内で投資による「資産所得倍増プラン」を進めていくと語った。資産から得られる所得を倍増するということは、端的には、相対的に利回りの高いリスク資産の保有(ストック)を増やすことだ。これを聞いた我々の第一印象は、「あれっ? 倍増させるのは給与所得の方じゃなかったっけ?」とか「以前に、『金融所得課税を強化する』と言っていたことと矛盾しないか?」と突っ込みたくなったり、あるいは「お決まりの『貯蓄から投資へ』という話だよね」と受け止めたりするといったものだった。とはいえ、成熟した国においては、国民の資産所得が増えるのは望ましいことには違いない。

首相発言の揚げ足を取るつもりはないが、わが国でこれまで「貯蓄から投資へ」の動きが一向に進んでこなかったことについて、この際、議論でいつも見落とされている「あること」に言及しておきたい。その点が変わらない限り、いくら掛け声を大きくしたところで、何も変わらないと思うからだ。

 

「間接金融」から「直接金融」へ

「貯蓄から投資へ」と言うとき、貯蓄とは預貯金のことだし、投資とは株式のことだろう。リスクがほぼない資産と、リスクがある資産との違いと言ってもいい。債券は預貯金よりはリスクが高いが、今のような超低金利の下では、岸田首相の頭にある「投資」はもっぱら株式であるに違いない。

マクロでお金(マネー)の問題を考える際に、ぜひとも心掛けるべきことは、「バランスシートで考える」ということだ。預貯金はバランスシートで考えると金融機関の負債である。では、それに対応する資産は何か。それは金融機関が行う貸出であり、証券(債券)投資だ。問題はその順番なのだが、金融機関は預貯金を原資に貸出をしたり、債券投資をしたりしているのではない。事実はその逆で、金融機関の貸出や債券投資が先にあって、その結果として「預金が生み出されている」のだ。このことは金融機関の職員ですら大概は誤解しているのだが、マクロで見れば間違いのない真実である。

A氏が証券会社を通じて株式投資をすることを想定してみよう。A氏が手に入れる株式はB氏が手放したものである。この場合、A氏とB氏はお互いが持つ預金と株式を交換したに過ぎず、マクロでみれば「貯蓄から投資へ」の動きが全く生じていないのは明らかだ。次に、C社が増資をして、それをA氏が購入し、C社が増資で得た資金でD銀行からの借入を返済するとどうなるか。A氏は預金を手放して株式を得る(「貯蓄」から「投資」)。C社は株式を発行して得た預金で借入を返済する。その時D銀行のバランスシート上では、C社の預金とC社への貸出が相殺される(同時に消える)のだ。

「貯蓄から投資へ」の変化は、このように金融機関が信用供与(貸出や債券投資)を減らして、結果として同額の預金がなくならない限り起こりえない。換言すれば、マクロで間接金融から直接金融への動きが生じることが、この変化が生じる絶対条件なのだ。

まず企業が変わることから

世の中には、デフレの原因は巷に存在するマネー(預金)の量が少なすぎることだという誤解がある。日銀の「異次元の金融緩和政策」にしても、根っ子にある考え方は、預金を増やすために、まずは金融市場に供給するマネーをとことん増やそうというものだった。

しかし、日銀がそうした政策を始める前から、日本のマネー(預金)は経済規模との対比でみれば、他の先進国よりも遥かに多かった。それは、銀行のバランスシートで考えれば、信用供与額が極めて大きかったということだ。企業にしろ、そして近年では国にしろ、自ら資本市場で資金調達するよりも、もっぱら銀行からの調達に依存する度合いが、欧米諸国などと比較すれば遥かに大きかったのである。

岸田首相は講演で、「(個人金融資産の合計である)2000兆円は大きなポテンシャル」だと言っている。このうちの半分弱が「貯蓄」に相当する預貯金だが、それを「投資」に相当する株式に振り向けたいということなのだろう。しかしこの1000兆円にも及ぶ預貯金は、金融機関が信用供与(貸出、債券投資)を行った結果、生み出されたものだ。家計の投資を増やしたいのなら、まずは金融機関の信用供与を減らし、その分、預金も減らす必要がある。

その先で政府にできることは、例えば国債を市場で発行することだ。銀行や、まして日銀に買わせるのではなく、魅力的な金利を付けて市場で募集するのだ。加えて、日銀を含めた銀行が保有している国債も市場に売却させればよい。そうすれば銀行の信用供与額が減り、預金が減少し、家計の債券「投資」を増やすことができる。

もちろん、もっと求められるのは、企業とくに大企業が、銀行に頼らずにもっと資本市場からの資金調達を増やすことだ。株価という投資家の厳しい目に晒される中で、成果を上げ、株価の上昇を目指すのだ。そうして、欧米企業に比べて時価総額が小さすぎる現状を改善していくことが、家計の投資を呼び込むことにつながる。

家計の金融資産が2000兆円もあることが「ポテンシャル」なのではない。その半分近くが預金の形を取らざるを得ないほど、企業が間接金融に頼っている現状がポテンシャルなのだ。変化を起こすべき主体は企業だ。銀行に頼らず、資本市場からの資金調達を増やして、家計に「投資」の選択肢を与えることが求められている。それは、企業も家計ももっと緊張感を持つことが経済を活性化させるのだと言い換えてもいいかもしれない。

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