JMAの経済ニュース 円安政策の誤りがわかってきた(2022年4月26日)
本コラムでは、世の中で起こっている経済トピックスの中から当委員会の解釈で解説しています。
マクロ経済の視点からミクロのM&Aを始めとする経営活動にお役立ていただきたく掲載しているものです。
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ジャパンM&Aソリューション株式会社
JMA経済トピック製作委員
円安政策の誤りがわかってきた
円安が急速に進んできた。この円安は「悪い円安」だという。その意味は(多くの)日本国民にとって望ましくない円安だということだろう。解せない話だ。なぜなら、日本の金融政策はまさにこういう状況が実現することを目指して運営されてきたはずだからだ。やっとその時が来たのだ。それなのに政策の成果を誇るどころか、国民からは「こんな状況には耐えられない。なんとかしろ」と非難される始末。ボタンの掛け違いでもあったのだろうか。
黒田東彦(はるひこ)総裁の下、日銀が2013年の春から始めた「異次元の」(日銀自身がそう言っている)金融緩和政策の目的はデフレの克服だ。デフレは物価が持続的に下落することだから、デフレの克服とは物価の持続的かつ安定的な上昇を実現することだ。消費者物価が前年比で2%上昇することを目指してきた。それがグローバル・スタンダードだからだという。
デフレに陥っていた日本経済で、どうやって物価上昇を実現させるのか。それは、市場に大量のマネーを供給し金利も引き下げることで円安を実現し、その結果生じる輸入価格の上昇を国内に転嫁させることで物価を押し上げようというものだった。
途中の2015年の秋に、原油価格が大幅に下落する事態になった際には、「人々のデフレマインドが強まりかねない」ことを懸念した日銀は、金融緩和政策を一段と強化した。原油価格の下落が国内の物価を押し下げてしまうので、もっと円安を進めて物価の下落に歯止めをかけようとしたのだ。「原油価格が下落するのは困ったことだ」というのが日銀の認識だったわけだ。日銀がぜひとも実現したいと目指してきたことは、人々の「デフレマインドの転換」つまり「インフレ期待の醸成」だ。人々が今後、物価は上がっていくと予想するような状況を実現することを最重要視してきたのだ。
そして今、日銀が10年近くもの期間を通じてずっと望んできた状況が実現している。原油などの資源価格だけでなく、輸入価格全般が大幅に上昇している。加えて急速に円安が進んできたので、円ベースでみた輸入価格がさらに高くなっている。消費者物価はまだ1%すら上昇していないが、これは昨春来、携帯電話の料金が大幅に下がったことが効いているためだ。その影響が一巡する今春からは、物価上昇率が待望の2%程度になる見込みだ。人々にも最早デフレマインドはない。今後も物価が上昇していくことは今や国民のコンセンサスだと言えるだろう。
とはいえ人々は、賃金が上がっていないのに物価だけ上昇すれば生活が苦しくなるではないかと不満だ。しかしこうした状況は日銀にとっては想定内のことだ。まず物価が上昇するが、早晩、賃金も上昇してきて実質賃金が増加するというシナリオを描いている。これをマクロ的に記述すると、所得の伸びを示す名目GDP成長率が3%、総合的な物価指数であるGDPデフレーターの伸びが2%、したがって実質GDP成長率、つまり実質所得の伸び1%が確保されるというわけだ。目指してきた物価上昇率が実現しさえすれば、必ずこのシナリオも実現すると考えているのだ。
さて、おそらく足元では、目標とする消費者物価の上昇率2%が実現している。その手段と位置付けてきた円安も進んでいる。しかし、それで人々の所得は本当に増えるのだろうか。エネルギーを始めとする輸入資源の価格の上昇は、日本株式会社にとっては仕入れ価格の上昇だ。増加したコストを、仮にすべて売値に転嫁したとしても、消費者物価は確かに上昇するが、販売金額から仕入金額を引いた日本株式会社の付加価値は1円も増えない。マクロでみれば、この付加価値の総合計が名目GDPであり、所得(企業収益+賃金)だ。物価は上がっても、所得を増やす原資はいったいどこにあると言うのか。
政府の「支持」と「(暗黙の)指示」を受けた日銀が目指してきたデフレの克服(物価上昇)は、目標と手段の両方が誤っていた。いわく、物価上昇が実現すれば経済は良くなる、円安を通じて物価上昇を実現することは経済にとってもプラスである、と。しかし「目標:物価上昇、手段:円安」という金融政策は今や破綻している。物価上昇は経済成長の結果として実現するものであって、経済成長の原因ではない。自国通貨を弱くして経済をよくしようとするのは、およそ先進国の取るべき政策ではない。
問題の根源は政治(政府)にあるのだろう。経済の持続的成長と、結果としての健全な物価上昇の実現を、日銀だけに担わせようとしたことが間違いだった。根っ子にある考え方は、1万円札を印刷するコストはたった20円、輪転機を回しさえすれば20円のコストで9980円が丸儲けになる。それができるのは日銀だけだから、日銀にせっせと通貨を発行させようという、安易すぎる考え方だった。誰に吹き込まれたのかは知らないが、そんな悪魔の囁きに乗った政治のリーダーたちが、「異次元緩和」という壮大な実験の試みと失敗を引き起こした。
フリーランチはないという。「悪い円安」に困る人たちが増えた今こそ、円安に頼らず、この国の経済をどうやって強くしていくかについて、真面目に議論すべき時だ。
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