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JMAの経済ニュース 改めて「財政赤字の膨張」を考える(2022年3月18日)

本コラムでは、世の中で起こっている経済トピックスの中から当委員会の解釈で解説しています。

マクロ経済の視点からミクロのM&Aを始めとする経営活動にお役立ていただきたく掲載しているものです。

掲載している内容については、当委員会で知りえた情報に基づいた見解であり、

利用者個人の責任においてご判断下さるようお願いいたします。

ジャパンM&Aソリューション株式会社
JMA
経済トピック製作委員

改めて「財政赤字の膨張」を考える

 

コロナ禍で大幅に増加した国債発行

新型コロナへの対応に加え、その蔓延で大きな打撃を被った経済活動を回復させるため、多くの国が巨額の財政支出を行った。日本も例外ではない。感染は2020年初から始まったが、新型コロナが意識されていなかった20年度当初予算(204月~213月)の歳出枠は79兆円(国債費を除く)だった。しかしその後に3度の補正予算が組まれ、最終的に歳出枠は162兆円(2倍強、83兆円増)に膨れ上がった。追加歳出の財源は主として国債で賄われたので、当初予算では33兆円だった発行額が3倍増の109兆円となった。

この結果、国のバランスシートを見ると、213月末の国債発行残高(政府短期証券、借入金は除く)は1084兆円と、初めて1000兆円を超えた。ちなみに総人口(12580万人)で割ると1862万円になる。

また、今年度(21年度)の補正後予算を見ても、歳出枠は118兆円(20年度当初予算比39兆円増)、国債発行額が66兆円(同33兆円増)とコロナ以前を大きく上回ったままだ。

国債は返さなくてもよい借金⁉

こうした財政事情の下で、財政の健全化を重視する立場(健全財政重視派)と、景気回復(経済成長)のために財政の一層の活用を重視する立場(財政支出拡大派)との間で、嚙み合わない議論の応酬が続いている。そこで改めてこの問題を考えてみたい。

最初に、国債という借金は返せないし、そもそも返さなくてもよいことを確認しておこう。借金を返す行為は単純だ。支出を収入以下に抑えて余った分を返済に充てるのだ。22年度の一般会計予算では、税収等の歳入が70.7兆円に対し、一般歳出と地方交付税交付金を合計した歳出が83.3兆円で、差引12.6兆円の赤字だ。さらに国債の利払い費8.2兆円も加えた合計20.8兆円が追加で調達が必要な額だ。つまり借金はその分だけさらに増える。

借金を多少なりとも減らすためには、歳入を増やしたり歳出を減らしたりして、22年度だと収支尻を20.8兆円以上改善させる必要がある。税収は65.2兆円が見込まれているのだが、前年度の当初予算に比べて7.8兆円(13.6%)もの増加を見込むなど相当に楽観的だ。それだけに、その先、増税もなく税収が順調に増加し続けていくとは考えにくい。

では歳出は減らせるか。地方への交付金を減らすのは地方自治の理念に反するだろうし、一般歳出(67.4兆円)の大半は社会保障関係費(36.3兆円)だ。高齢化が加速する中で、支出金額の増加ペースを抑制するのがせいぜいで、減らすことなどできそうにない。結局、財政収支を黒字にして借金を返す(減らす)ことなど到底ありえないと言わざるを得ない。

加えて、そもそも日本は財政収支を黒字にして借金を返済したことはこれまでに一度もない。もちろん満期を迎えた国債は償還するのだが、その財源は新規の国債発行による収入なので、何のことはない借り換えてきただけだ。借り換えだけでは新たな収入にはならないので、さらに国債を追加発行するから発行残高が増加する。これまで発行残高は増える一方で減少したことは一度もないので、要するに返したことは皆無だということになる。

 

中央銀行が国債を引き受ける日本

国債は返さなくてもいいのか。結果として国債の発行残高が増え続けるとどうなるのか。当然ながら毎年の国債発行額は増えていく。国債を発行して得る資金の使途は、①満期を迎えた国債の償還、②利払い、③新規の歳出、の3つだ。発行残高が増大すれば①と②は増え続ける。年間の国債発行額(市場の消化能力)に限度があるなら、③のための発行が制約されるという問題が発生する。いずれ必要な歳出が行えなくなってしまうということだ。

ところが日本の場合は、実態的に日銀が国債を引き受けることが行われている。あくまで金融政策の一環としてという建前だが、国債の大量発行が金利の上昇をもたらせば、金利をコントロールするための「金融政策」として国債の購入が正当化されるだろう。しかも日銀による国債購入には技術的な上限がない。比喩的に言えば、輪転機を回しさえすれば無制限に引き受けることが可能だ。

中央銀行による国債引き受けは、最近よく見聞きする「現代貨幣理論(MMT)」の主張でもある。いくつかの条件を満たせば(日本はすべて満たしている)、政府は税収を当てにせず、必要な歳出をすべて通貨発行で賄ってよいという考え方だ。インフレにならない限りという制約はあるが、日本ではむしろ物価が上がらないことが問題なので、日本経済はMMTを体現した優等生だと見られているのだ。

満期を迎えた国債は全て借り換えて、歳出に必要な資金はすべて国債の新規発行で賄う。そうして発行される国債の全額を日銀が引き受ける。インフレにならない限り、このやり方に何の問題もない。もっと国債を発行してインフラを整備したり、経済成長を促したりすべきだというのが「財政支出拡大派」の主張だ。新型コロナに見舞われた20年以降、経験したことがない巨額の歳出を実行しても、インフレになったり金利が上昇したりするような副作用は一切生じていない。そうした事実も、この主張が勢いを増している理由だろう。

 

通貨価値の拠り所は「政府に対する信頼」だけ

しかしその主張に問題はないのか。発行された国債を(間接的にせよ)日銀が購入すれば、その額だけ通貨が発行される。その通貨は一旦は政府に渡るが、歳出されてわれわれ国民のものとなる。政府は国債を発行して(負債の増加)、通貨を得る(資産の増加)が、それを歳出してしまうので債務超過に陥る。政府の実物・金融の両資産を考慮した債務超過残高は、一般会計と特別会計を合計して20年度末で655兆円(19年度末:592兆円)もある。

われわれの資産である通貨は日銀にとっては負債である。日銀はその負債に見合う資産として国債を保有している。そして国債は政府の負債だ。しかし政府は債務超過に陥っているので、国債という負債に見合う資産は持ち合わせていない。結局、われわれの資産の裏付けになる究極の資産は存在せず、その拠り所は「政府に対する信頼」しかないことになる。

一般に、1万円札が1万円の価値を持つのは、誰もがそれを1万円として受け取ってくれるからだ。そこには、単なる紙を通貨として発行できる日銀、ひいては政府に対する信頼がある。たとえるなら、王様が本当は裸であってもかまわない。要は皆が「王様は立派な衣装をまとっている」というフィクションを共通認識として持ち続ける限りはそれでよいのだ。

MMTは政府と中央銀行を一体とした「統合政府」を前提にしている。そうなると、国債は政府の負債であると同時に中央銀行の資産でもあるから、統合政府でみれば両者が相殺されて国債は存在しないことになる。とはいえ発行された通貨は統合政府の負債だし、統合政府が債務超過であることも変わらない。通貨価値の最終的な拠り所が統合政府に対する信頼であることも同じだ。

 

政府をいつまでも信頼できるか

さて、今までのところ国債や通貨を大量発行しても不都合が生じていないのは、わが国の経済が極めて低成長であることが主因だろう。他国並みに成長していれば金利も上がるし、インフレにもなると考えられる。だから今後のシナリオは、基本的に2つだ。1つは、今後は経済が成長するのであれば、金利の上昇やインフレの進行に直面し、その原因として放漫財政が一気に問題化することになるだろう。もう1つは、経済が今後も成長しないのであれば、物価も金利も上がらないまま財政赤字と国債の大量発行が続くというものだ。

いずれのシナリオでも、政府がどこかの段階でわれわれの(あるいは市場の)信頼を失うリスクからは逃れられない。前者のシナリオの下では、巨額の財政赤字を放置し、その事態を「改善する意欲も能力も持ち合わせていない政府」というレッテルを張られるリスクだ。後者では、「世界のどの国も行っていない、輪転機をひたすら回す操作」を安易に行って、野放図な歳出拡大を賄っているという評価が下されるリスクだ。

政府が一旦信頼を失うと、通貨はただの紙切れになって価値を失い、誰も受け取りたがらなくなる。それは対外的には円の価値が暴落することであり、国内的にはハイパーインフレが起こることを意味する。円安になれば輸出が増えるからよいと考えるのは誤りだ。輸入価格が暴騰して必要な輸入ができなくなるから経済活動が落ち込む。円安で日本製品に対する需要が増えたとしても、十分な増産体制を整えるのは困難だろう。企業も家計も、所得が激減し借金の返済負担が一気に増す。金利まで上昇すれば「弱り目に祟り目」だ。そもそも所得が減って物価が暴騰するのだから生活には大打撃だ。めぼしい企業や不動産が海外勢に買い占められるかもしれないが、それが日本経済を浮揚させるとは思えない。

「輪転機」は打ち出の小槌ではない。経済規模(GDP)と比較して世界最大の国債残高を抱えながら、国民の間で危機感が共有されていないのは異常だ。最たる先行き楽観論者は政治家だが、彼らに唯々諾々と従う政府がいつまでも信頼され続けると言えるだろうか。

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