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JMAの経済ニュース こんな見方もできる消費税(2021年4月)

本コラムでは、世の中で起こっている経済トピックスの中から当委員会の解釈で解説しています。

マクロ経済の視点からミクロのM&Aを始めとする経営活動にお役立ていただきたく掲載しているものです。

掲載している内容については、当委員会で知りえた情報に基づいた見解であり、

利用者個人の責任においてご判断下さるようお願いいたします。

ジャパンM&Aソリューション株式会社
JMA経済トピック製作委員

 

Ⅰこんな見方もできる消費税

 

「総額表示方式」になった消費税

4月1日から、小売りの現場で、消費税の「総額表示方式(内税方式)」が義務づけられた。値札が「消費税込みの価格」になるということだ。110円の表示だと、元値が100円で税額が10円であることはすぐ分かるが、121円とか132円となると消費税がいくら上乗せされているのかが直感的には分かりにくい。147円だったりすると暗算する気もなくなる。

消費税が、文字通り消費者に負担をお願いする税であるなら、当の消費者が、いくら税金を負担しているのかがよく分からないやり方を強制するのはおかしくないか。「税抜方式(外税方式)」にして、元値はいくら、そこに消費税が上乗せされて総額がいくら、とした方が納税意識も高まるというものだ。

もっとも、消費税は元々「総額方式」と決められていたようで、3月まで「外税方式」が認められていたのは、増税後3年間に限った特例措置だったようだ()特例措置が設けられたのは、消費税の増税後にいきなり総額方式を始めると、消費者が「値上がりした」との印象を強く持つので買い控えが起こる可能性がある。中小・零細事業者がきちんと価格転嫁できずに痛手を受けるような事態を避けるために、3年程度の猶予期間が設けられたのだ。

(注)総額表示方式の実施が本年4月になったのは、税率の8%から10%への引き上げが2度に亘って先送りされたことによる。

 

消費税は「事業者」税

では、なぜ消費税は「総額方式」でなければならないのか。消費税のモデルとされる欧州の「付加価値税」が参考になる。この「付加価値税」では総額表示は当たり前で、税抜表示という考え方がそもそもなく、税額を価格に含めるかどうかは全く自由であるようだ。

なぜそうなるのか。付加価値税が、事業者が生み出す付加価値に対する課税だと考えれば納得できるだろう。事業者課税だとすると、事業者にとっては付加価値税はコストだという位置づけになるから、彼らがそのコストを売値に転嫁するのは自然なことだ。しかもそれをどれだけ転嫁するかも事業者の裁量だ。わざわざ税額を明示して、売値に乗せる必要はないことになる。

日本の消費税も、実は事業者に対する課税であると考えると色々腑に落ちることは多い。そもそも消費税法には、事業者が納税義務者であるとは書いてある(第5条)が、消費者に税額を転嫁しろとは書いてない。事業者は、「売値にかかる税額から、仕入れにかかる税額を控除した額」を納税することが義務づけられているだけだ。

消費税は、事業者に対して多段階で課されているが、消費者に負担させることが最終的な目的であるなら、こんな複雑な課税方式は必要あるまい。最終段階だけで課税する「小売税」にすれば済む。そうしないのは、販売する相手が最終段階の需要者であるかどうかの判断が、常に容易だとは限らないからだろう。また消費税は、例えば設備機械の販売にも課税される。これは設備投資という最終需要だが、設備機械の購入者が消費者でないのは明らかだ。

さらに、現行の消費税には「免税業者」まで存在する。売上高が1千万円以下の事業者や開業後2年以内の個人事業者などが免税業者とされているのだが、これも消費税が事業者課税であることを示唆している。最終的な負担者が消費者だというなら、免税される対象は例えば所得の低い消費者であって、事業者ではないはずだ。事業者が、単に税額を消費者に価格転嫁するだけの存在であるなら、免税事業者を設けるのはおかしなことだ。

 

消費税の税源は全事業者の売上

結局、消費税の本質は、川上から川下までのすべての事業者を対象にして、その売上げに課税する「売上税」なのだ。そこに「仕入れ税額控除」の仕組みを入れて、重複を回避した多段階での課税を可能にした税なのである。事業者の納税額が、「売上げにかかる税額から仕入れにかかる税額を控除した額」であるのは、「売上げから仕入れを控除した付加価値にかかる税額」と言い換えることができるから、事業者課税である欧州の付加価値税と同じものだと言える。

このことは何を意味するのか。それは納税額は事業者のコストの一部であるという単純な事実だ。コストは売値に転嫁して回収するものだが、全額を転嫁する義務はないし、転嫁できる保障もない。十分に転嫁できるかどうかは、当事者間の力関係に依存するのだ。消費税も同様だ。決して、消費税だからスムーズに転嫁できるわけではない。買い手(消費者)にとっては、値上がりは、理由の如何を問わず値上がりでしかない。誰も消費税のせいなら許すとは言ってくれないのだ。

税当局にとっては、消費税は魅力的だ。すべての事業者が対象だから、すそ野が広いし、税源が売上げであって収益ではないから、徴税額の振れが小さく、安定している。広く薄く課税することによって、大きな安定した税収を得ることができるのだ。それだけに、税財源として、消費税への依存は今後もさらに高めていきたいと思っているだろう。そして事業者の抵抗を和らげるためにも、税額はあくまで消費者に転嫁するものだという体裁を整えておきたいのだろう。

 

問われるコストの「転嫁力」

もっとも消費者にとっては、消費税が事業者が納めるべき税なのか、消費者が納めるべき税なのかの違いに意味はない。いずれにしろ消費税に見合って購入価格が高くなるからだ。それだけに消費税率の引き上げに対する国民の抵抗は強い。引き上げのたびに、メディアが国を挙げた一大イベントであるかのような報道を繰り広げるからという面もあるが、そもそも値上げに対するアレルギー的な反応が国民の側にはあるのだろう。

しかし政府が、本音では事業者課税であるとの認識を持って「総額表示方式」を継続するつもりなら、今後の税率の引き上げを、小刻みかつ継続的に実施するのも一つの方法だ()。それは事業者のコストの上昇であるので、売値にいつ、どれだけ転嫁するかといったことは、すべて事業者に任せられることになる。事業者としては、今後こうした形でコストが上昇していくことは避けがたい流れであることに留意し、事業計画に反映させていく必要があるだろう。

() 例えば、毎年0.25%ずつ継続的に引き上げるといったやり方が考えられる。

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