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米大統領選でトランプ元大統領が圧勝(2024年11月12日)

本コラムでは、世の中で起こっている経済トピックスの中から当委員会の解釈で解説しています。
マクロ経済の視点からミクロのM&Aを始めとする経営活動にお役立ていただきたく掲載しているものです。
掲載している内容については、当委員会で知りえた情報に基づいた見解であり、
利用者個人の責任においてご判断下さるようお願いいたします。

ジャパンM&Aソリューション株式会社
JMA
経済トピック製作委員

 

予想に反して圧勝したトランプ候補

 11月5日の米大統領選挙で共和党のトランプ候補が勝利し、来年120日に第47代の大統領に就任することになった。選挙の結果が判明するまでに数日かかるのではないかとも言われていたが、投票日の翌日を迎える前に大勢が決するという圧勝劇での決着だった。

周知のことではあるが、米国の大統領は全ての有権者の投票によって選ばれる。ただし、もう少し正確に言うと、もちろん有権者は大統領候補者に投票するのだが、各州で最も多くの票を得た候補者がその州に割り当てられた大統領選挙人をすべて獲得する(勝者総取り方式)ことになっている。最終的に大統領選挙の勝敗は、各候補者が合計で何名の選挙人を獲得したかで決まる。全米の選挙人の総数は538人なので過半数の270人以上の選挙人を獲得すれば大統領に選ばれるのだ。

各州の選挙人の数は人口に比例して割り振られているので、各候補者は人口の多い州で勝利すればそれだけ多くの選挙人を獲得できる。また、この国では共和党と民主党の2大政党の存在が圧倒的だから、共和党候補が勝った州、民主党候補が勝った州という色分けができる。しかも実際には、50州のうちほとんどの州で、投票の前からほぼ色分けができているのだ。勿論、どの候補が勝つかが予想しがたい州もあるが、それらの州は「接戦州」と呼ばれている。今回の選挙では7州あるとされていた。

換言すると、この7州以外では勝敗はほぼ明らかなので、接戦州でどちらの候補が勝って、結果としてそこで何人の選挙人を獲得するかが最終的な勝敗を決めることになる。具体的には、接戦州以外の事前の票読みは、ハリス候補が226人、トランプ候補が219人、接戦7州の選挙人が93人だった。両候補は、接戦州から何人を上積みして270人に届かせるかを争ったのだ。

ちなみに、各州で勝者が選挙人を総取りするやり方は、大量の「死に票」が避けられない。極論すれば、大統領に選ばれた候補に対して、有権者のほぼ半分が「No」の意思表示をしていることすら起こり得る。また全米の獲得票数では勝っても、選挙人の獲得数では及ばなくて負けてしまうといった場合もあるので悩ましい。

勝敗の決め手は「経済」だった

 トランプはなぜ勝てたのか。失礼を顧みずに言えば、彼はとても尊敬できるような人物ではない。根拠のない話や嘘を連発し、下品な言葉で他人を攻撃する。数々のスキャンダルを抱え、複数の訴訟の被告人でもある。教養を感じさせず、関心のない事柄には驚くほど無知だ。政治的な交渉も「ディール」と称し、相手を脅して譲歩を引き出すことを得意としている。およそ「良い子のみんなはマネしないでね」という振舞いのオンパレードだ。

それでも支持されるのはなぜなのか。結局、決め手は経済だったということではないか。実は多くの米国民が自らの置かれた経済状況に深く失望している。凄まじい資産や所得の格差がある。「アマゾン創業者のジェフ・ベゾフ氏、投資家のウォーレン・バフェット氏、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏。2017年のデータによればこの3人の個人資産を合わせると米国の下位50%の人たちの個人資産に匹敵する」(日経新聞)そうだ。あるいは、大企業のトップと一般従業員との所得格差が200倍もあるといった話も聞く。住宅価格も高騰して、マイホームが買えなくなった人も多い。「コロナ禍後は一般的な住宅を購入するのに必要な所得水準が6.5万ドルから12万ドルに跳ね上がった。実際の所得水準も中央値で高まっているが8.5万ドル程度に止まっている」(日経新聞)。

バイデン政権が誕生した4年前と比較して、自らの経済状況がよくなったと思えない人たちが増えている。彼らはとくに物価の累積的な上昇に痛手を受けており、「前のトランプ政権の頃はそんなことはなかった」と嘆いている。バイデン政権のせいだと考える人たちにとって、政権を変えることは「少なくとも今より状況が悪くなることはない」と思えるのだろう。AP通信によれば、所得が低い人ほど、前回選挙から民主党から共和党に投票先を切り替えた人が多いという。本来、民主党支持者が多いはずの女性や黒人の票が、前回の選挙に比べて落ち込んだことも、妊娠中絶やLGBTQ、あるいは銃規制といった「信条」に関わる問題よりも、「目先の経済」こそが重要だと考える人が増えたことを示唆していると思われる。トランプは尊敬の対象ではなくても、現状を変える馬力がありそうな存在なのだろう。

トランプの公約

 大統領選挙と同時に上院と下院の選挙も実施された。上院は定員100名のうち2年ごとに約3分の1が改選される。今回の改選数は35人だった。一方、下院は2年ごとに定員の435人すべてが改選される。今回は上院で共和党が逆転して過半数を得ることがすでに確定している。下院の帰趨は現時点ではまだ判明していないが、共和党が優勢だ。仮に下院でも共和党が過半数を握ると、大統領と上下両院のすべてを共和党が押さえる(トリプルレッドという)ことになるので、トランプ新大統領の意向が議会の抵抗で阻止されることなく、次々に実現してしまうような事態もありえる。

ではトランプはどんな政策を打とうとするのか。そのキーワードは「規制緩和」、「減税」「関税」、「移民」等々だろう。

まず代表的な規制緩和策として「石油・ガスの掘削推進」がある。インフレ対策として、燃料価格を引き下げることが目的だ。掘削に関する許認可を出しても産出量がすぐに増えるわけではないだろうが、エネルギー価格が低下すれば、インフレ率の低下を促すだけでなく、実体経済にもある程度プラス効果をもたらすだろう。もっとも、パリ協定から再び離脱したり、バイデン政権が導入したクリーンエネルギーへの補助金がなくなることも想定される。世界の潮流には逆行する政策だ。

減税については、「トランプ減税」と言われる個人所得減税が25年末に期限を迎えるのを恒久化することと、法人税率を引き下げるという公約がある。前者については、延長されなければ実質的に増税効果が生じるわけだから、恒久化は26年以降の経済にプラス効果をもたらす。後者については現行21%の法人税率を引き下げる話だが、下げ幅や対象企業は定かではない。企業に国内への投資を促す一方、財政負担が増加することになる。トランプ減税の延長については、10年間で5.35兆ドルの財政負担増になるとの試算もある。

関税の引き上げについては、トランプは中国製品に60%、それ以外の国からの輸入品に1020%の一律関税をかけると主張してきたが、あくまでも対外交渉の戦術だとの見方もあり、はっきりしない。仮に言い値通りの引き上げが行われば、現状は23%の平均関税率が17%程度に跳ね上がるとも言われており、むしろ米国経済を悪化させる恐れがある。輸入価格が上昇するので、国内での価格転嫁を通じて内需を圧迫したり、輸入量自体が減少して国内での供給不足を引き起こしたりする恐れがあるからだ。

不法移民を強制送還するという公約は過激な政策だ。1100万人ほどいるとされるだけに、本当に実行すれば影響は大きい。米国経済への影響だけを考えても、労働力の不足を招いて賃金が上昇したり、サービスの低下を招いたりする恐れがある。またこうした短期的な影響だけでなく、長期的には経済の活力や成長力を低下させる懸念もある。もっとも移民・関税執行局は1人当たりの送還に1978ドルかかると試算しているという報道(CNN)もある。単純に計算しても200億ドル(≒3兆円)以上の費用がかかるので、現実的ではないだろう。しかし移民の流入に不満を持つ国民も多いだけに、規模を縮小して実行されるのは確実だろう。

アメリカファーストの対外政策

 こうした経済政策以外にも、世界の国々とどう関わっていくつもりなのかという問題がある。超大国である米国が世界に及ぼしうる影響力は本来大きいはずだが、どれだけ積極的に関与するつもりなのかには疑問がある。「アメリカファースト」という言葉に象徴されるように、もっぱら短期的な実利が判断の基準になる可能性がある。

ウクライナへの支援が大きく削減されたり、場合によっては止まってしまう事態もありそうだ。ウクライナにとっては受け入れがたい形で停戦に追い込まれる可能性は小さくないだろう。中国に対しては、超党派で最大の脅威だとみなしており、厳しい姿勢で臨むことに変わりはないだろう。一方の中国は、経済的に厳しい状況にあるとはいえ、だからと言って態度を軟化させることは考えられない。ただし、経済的には強い結びつきがあるだけに、関係を断ち切るような対立に向かうことにはなるまい。中東については、イスラエルの強硬姿勢を抑えることは困難だ。一時的な停戦はあっても、解決には程遠いだろう。

日本との関係については、「首脳同士の個人的な友情や信頼」が機能するようなことはなく、安全保障問題にしろ貿易問題にしろ、高い球が飛んでくることが予想される。

 

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