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JMAの経済ニュース 誰が経済を成長させるのか(2021年9月28日)

本コラムでは、世の中で起こっている経済トピックスの中から当委員会の解釈で解説しています。

マクロ経済の視点からミクロのM&Aを始めとする経営活動にお役立ていただきたく掲載しているものです。

掲載している内容については、当委員会で知りえた情報に基づいた見解であり、

利用者個人の責任においてご判断下さるようお願いいたします。

ジャパンM&Aソリューション株式会社
JMA経済トピック製作委員

 

誰が経済を成長させるのか

 

GDPデフレーターのもう一つの意味

デフレとは物価が持続的に下落することだが、一部の物価ではなく広く経済全般の物価で考えるときには「GDPデフレーター」が物価の尺度になる。総合的な物価指数とも呼ばれるGDPデフレーターとGDPとは「GDPデフレーター=名目GDP÷実質GDP」という関係にある。そのGDPデフレーターの上昇率がマイナスであることがデフレの意味なので、「デフレとは、名目GDPの成長率が実質GDPの成長率を下回ること」だと言える。

名目経済成長率が実質経済成長率を下回るとはどういうことか。GDPは国内総「生産」という言葉の頭文字である。しかし考えてみると、生産されたものは売られるので、誰かがお金を支出して「購入」するし、売った方はそれで「所得」を得る。つまり、生産と購入(支出)と所得の金額は同じになる筋合いだ。これを経済学では「GDP3面等価」と呼んでおり、どの教科書にも必ず書かれている大事な考え方だ。

さて、この3面等価を考慮すると、「GDPデフレーター=名目国内総所得÷実質国内総生産」と言い換えることができる。つまり「GDPデフレーターは実質生産1単位当たりの名目所得」のことだとも考えられるのだ。これは、卑近なたとえとして自動車だけを生産している経済を想定すると、GDPデフレーターは、「自動車を1台生産・販売して生み出される(得られる)名目所得」のことだと言える。本来は経済全体の物価指数だと理解されているGDPデフレーターだが、所得の大きさを測る指標でもあるのだ。

名目成長率<実質成長率

2000年以降、新型コロナが蔓延する直前の2019年までの日本経済を振り返ると、19年間のGDP成長率は、名目成長率が年平均0.3%、実質成長率が同0.8%だった。したがってGDPデフレーターの上昇率は同-0.5%(1.003÷1.008=0.995)とデフレが続いてきたのだ。

先の自動車生産のたとえに従えば、自動車の生産台数は毎年平均して0.8%ずつ増えてきたのだが、それを販売して得られる所得の伸びは年平均0.3%ずつしか増えなかった。なぜそうなったかと言えば、自動車1台あたりの販売価格が毎年0.5%ずつ下がり続けた(デフレだった)からだ。

もっとも、デフレのせいで名目総所得(名目GDP)が毎年0.3%ずつしか増えなかったと受け止めたのが誤りだった。こう考えてしまうと、「デフレを克服しさえすれば成長率が高まり、所得が増える」という結論になる。そこで打たれた「異次元」の超金融緩和政策が、安倍・菅政権下で8年半にもわたって続いたが、いまだに目標(消費者物価の上昇率2%)達成の目途すら立っていない。最初に認識を間違えてしまったからだ。

デフレは、名目所得の伸びが実質生産の伸びを下回っているという現象を示しているに過ぎないのであって、因果関係を教えてくれるわけではない。自動車の生産が毎年0.8%ずつ増えているのに、それで得られる所得が0.3%ずつしか増えていない原因は他にあるのだ。

付加価値=企業活動の成果

名目GDPは名目国内総所得のことだが、国内で生み出された「付加価値」の総合計でもある。付加価値とは、企業の「売上から仕入(他の企業の売上)を控除したもの」であり、その中身は賃金(家計の所得)と企業収益(企業の所得)である。政府は家計から所得税、企業から法人税を徴収するので、結局、名目GDPという付加価値の総合計は、家計と企業と政府の3つの経済主体に分配されることになる。これが経済の仕組みだ。

ここで大事なポイントは、分配される前の所得(付加価値)の総額はすべて広い意味での企業活動の成果であるということだ。名目GDPという所得の総額は、そのすべてが企業活動によって生み出されたものであり、それを3つの経済主体が分け合っているのだ。したがって、今世紀に入ってからの名目成長率が年率0.3%と極めて低かったのは、企業活動の成果がそのペースでしか増えてこなかったことを意味しているのである。

総所得がほとんど増えない状況の下では、企業が自らの分け前を少しでも増やそうとすれば、家計の取り分を抑えるしかない(政府の取り分は法律で決まっている)。つまり人件費の抑制だ。その主要な手段が非正規雇用への依存度を高めることだった。結果として家計の所得は一向に増えなかったので、消費は盛り上がりようがなかった。それは企業の売上が増えないことを意味するので、「企業活動の成果」の伸びは低いままだった。

経済全体の成果(所得)が増えない中で、個々の企業が「せめてわが社だけでも売上(所得)を増やしたい」と考えて取った行動が「値下げ」だった。ところが皆が同じ行動を取ってしまったので、引き起こされた結果がデフレなのである。つまりデフレは企業活動の成果が伸びなかったことの原因ではない。それを伸ばせなかった企業が、苦し紛れに取った行動の結果なのである。

成果が出せなかった日本の企業

日本の企業は、良いモノや良いサービスを作ることは得意だ。先のたとえで言えば良い車を提供できているのだ。問題は、それを「相応しい価格」で買ってもらうための知恵と工夫と努力が不十分だということだ。強い企業は付加価値を増やすために仕入価格を買い叩きがちだ。「付加価値=売上-仕入」だから個別の企業にとっては正解かもしれないが、納入企業の売上と付加価値を減らすだけで、経済全体の所得増加にはつながらない。値下げは競争を消耗戦に陥らせてしまう。

付加価値の増加は、売上を増やして実現させるべきだ。企業収益を増やすだけでなく、家計の所得を増やし、税収を増やすことにつながる。そのためには、良いモノ良いサービスを「安く」ではなく「相応しい価格」で売る、購入者が「納得して」その価格を払ってくれるように売る必要がある。それはマーケティングのやり方かもしれないし、技術革新のための投資だったり、ブランド価値の確立なのかもしれないが、いずれにしろ個々の企業の知恵と工夫と努力にかかっているのだ。

G7と呼ばれる主要先進国を比較すると、「日本だけがそれができていない」」という不都合な真実に直面する。2000年以来の19年間で、家計の賃金はどの国も5割以上増えているのに、日本だけが5%減少(!)している。企業活動の成果である総所得を、政府が重税で召し上げたわけではないし、企業が不当に独り占めしたわけでもない。企業が成果そのものを増やせなかったのだ。

仕入価格を抑えたり、付加価値の一部(家計の取り分)を削ったりして企業収益を増やすことに汲々として、売上増によって付加価値を増やす王道を進めなかったのが日本の企業なのだ。成果が出ないことをデフレのせいにしても何も解決しないことは、この8年半の経験で分かっている。デフレは原因ではなく結果であることを受け入れて、個々の企業が、相応しい価格で売って付加価値を拡大させることでしか、経済の低迷からは抜け出せない。

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