トランプ政権下の為替相場について(2024年2月20日)
トランプ政権下の為替相場について(2024年2月20日)
トランプ大統領は関税の引き上げを公約に掲げて大統領選挙に勝利しました。トランプ政権が関税を引き上げる理由について、財務長官に就任するベッセント氏は3つあると言っています。
1つ目は不公正な貿易慣行を是正すること
2つ目は歳入の確保
3つ目は交渉の道具
不公正な貿易慣行というのは、ダンピングと呼ばれる不当に安い値段で輸出するようなやり方を指しますが、中国を念頭に置いているのでしょう。この場合には、中国からの輸入品に対する関税だけを引き上げるというやり方になります。
トランプ大統領は昨年の選挙中には税率を60%にすると言っていました。
また、「メキシコやカナダには25%の関税を課す」「すべての国を対象に、10%から20%の関税を課す」と言ったりもしています
いずれにしろ、ずいぶん乱暴なやり方ですが、実際に実行するかどうかよりも、いわば脅しとして使って、相手国と直接交渉し、有利な結果を得ようとする意図があるのだと思われます。まさに関税引き上げの3番目の理由である「交渉の道具」にしようということです。
トランプ政権が、いつから、どんなやり方で、どの程度の関税を引き上げようとするのか、まだよくわかりませんが、引き上げてくることは確実です。その際、関税という税金を払わされるのは直接的には米国の輸入業者です。輸入業者にとってはコストが上昇することになりますから、その分はそのまま価格転嫁されます。結果として輸入品の価格が上昇することを通じて、国内のインフレ要因になるわけです。
ご存じのように、米国はここ数年、インフレに苦しんできました。バイデン前大統領が再選を果たせなかった最大の理由が、「インフレを抑えられなかった」ことだと言われているくらいです。
中央銀行であるFRBは、ゼロパーセントに下がっていた政策金利を、インフレ抑制のために2023年には5%以上の水準にまで引き上げました。
かつてないほど短期間かつ急激に利上げしたのです。その後、インフレが徐々に収まってきたことから、昨年の秋から、FRBは少しずつ金利を下げ始めました。
しかし今後、トランプ政権が関税を引き上げると、その程度によっては、せっかく治まってきたインフレが再び加速する可能性もあります。そうなると、利下げを始めていたFRBがそれをやめたり、場合によっては再び利上げするようなことがないとは言えなくなります。そんな事態になってしまうと、株価が大きく下がることは避けられないでしょう。トランプ政権としては全く望まない、あってはならない事態だと言えます。
さて、関税を引き上げるのはトランプ政権の公約です。しかし関税を引き上げるとインフレになって、結果として株価が下がってしまう事態を招く可能性があるわけです。どうすればよいのでしょうか。
そこで考えられる対処方法が、「ドル高を通じたインフレの抑制」です。為替市場でドル高が進むと、アメリカはより安い価格で輸入することができますから、この理屈で関税の悪影響を和らげるのです。
単純に言うと、輸入品に10%の関税が課されて、輸入価格が10%上昇することになっても、ドル相場が10%上昇すればチャラ、つまり輸入業者のコストは上昇せずに済むのでインフレにもならないということです。
実際、ベッセント財務長官は1月16日の議会証言で、「理論的には一律10%の関税はドルを4%上昇させる」と主張しています。
確かに、アメリカが関税を引き上げると国内で輸入品の価格が上昇しますから、アメリカに輸出している国にとっては、輸出量が減ってしまう結果を招いてしまいます。そうした事態が予想されれば、為替市場では輸出国の通貨がドルに対して下落する、つまりドルが上昇するのです。ベッセント財務長官は、そうして起こるドル高をアメリカは容認すると言っているわけです。
アメリカのように、巨額の貿易赤字を計上している国は、少しでもその赤字を減らすために通貨安、つまりドル安を望むと考えるのが自然です。実際トランプ大統領は、貿易赤字は負けだ、悪だと公言している人ですから、ドル高ではなく、ドル安が望ましいと考えているだろうと見られています。だからトランプ政権になると、「ドルは強すぎる、円は弱すぎる」といった発言をして、大幅な円高が起こるのではないかという見方もあります。
しかし金融市場を熟知しているとの定評があるベッセント財務長官の考え方はそれとは違います。「関税の引き上げは重要だ。ただし引き上げるとインフレを招く恐れがある。しかしその場合でも、関税引き上げが招くドル高を放置することによってインフレを和らげることができる」というのです。トランプ大統領は、「偉大な大統領」というレガシーを作りたがっています。関税を引き上げるのも、そのためです。しかし、そのことがインフレを引き起こして金利が上昇したり、株価が大きく下落したりするのは絶対に避けたいに違いありません。そこでベッセント財務長官が、「関税を引き上げてもインフレにしないためにドル高を容認する。そうすれば望ましい結果を得ることができる」と、トランプ大統領を説得し、納得させるでしょう。そのように考えれば、トランプ大統領が関税の大幅な引き上げに踏み切った場合、為替市場で起こることはドル高、円から見れば円安という可能性が高いのではないでしょうか。(五十嵐敬喜・著)
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